梅雨だから蒸し暑いかというと必ずしもそうでもなく、むしろ「蒸し寒い」と言った方が良い日が多い。あ、それを「梅雨寒」というのか・・・。特に仙台では、夜などまだ長袖が手放せない。学生くんたちも私たち教師も、少々疲れ気味。5月の連休以降夏休みまでの期間は、一年で最も長く、梅雨のうっとうしさも重なって、一番くたびれる時期なのだ。
そういう季節だから、この際、もっと具合が悪くなりそうな話をしよう。どちらも学校現場にまつわる話である。
私の大学の卒業生某さんは、今年の4月から某県の学校に新任の先生として勤めることになった。着任の日、初めて学校に行って、教頭先生といろいろ打ち合わせをする。
話もひととおり終わる頃、教頭先生曰く、「あなたは初任だからわからないかも知れないが、こういう日は菓子折りを持ってくるものだよ。」
気が利かない奴め・・・とまではっきり言われないまでも、そう言いたげな空気が漂ったそうだ。
実は某さんは、こういう場合どうなのかと迷いながら、菓子折りを用意していた。けれども、タイミングを逸して出しそびれていたのだった。慌てて持参の品を差し出すと、教頭先生は、こともなげに菓子箱に「某先生より頂きました」と書いた付箋をつけて、回覧に回したという。
菓子折りを持って挨拶に行くというのは、この国独特の礼儀だろう。某さんが持参したのは、「挨拶の気持ち」というべきもので、そういう習慣が悪いとは、私は思わない。
だけど、受け取る立場から督促するものなのか?たとえ持参しなかったとしても、「気持ち」が足りないとして、非難されるべきことなのだろうか。それが「この業界の常識」なのだから、今後恥をかかないようにとご指導くださったのだとしても、釈然としない。
もうひとつ。
別の卒業生某さんも、やはり学校の先生だ。その日は、教育委員会から指導主事先生が来訪されて研究授業があった。御前授業はうまくいって、検討会も和やか、指導主事先生は機嫌良くお帰りになったそうだ。よかったよかった。
しかし。
某さんは、信じ難い光景を目のあたりにすることになる。
某さんが見たのは、教頭先生が、指導主事先生のお履物を磨いているところだった!驚きを通り越して引いてしまった某さんは、先輩の先生にこっそり尋ねてみる。すると、あぁ・・・最近はあんまりやらないけどねぇ~という、これまた何とも奇妙な返事。ということは、以前は当たり前のようにやっていたのか?以前というのは江戸時代か、それとも明治時代か?一体、今は何時代なんだ?
私は、基本的に学校現場に同情的である。教諭の不祥事が出るとひどいバッシングが巻き起こるが、中には少数のエキセントリックな者がいたとしても、ほとんどの先生たちは真面目に誠実に仕事していることを知っている。卒業生たちが活躍しているのも嬉しく思う。一部の保護者をモンスターと呼ばなければならないほど傷ついた現場で、教壇に立つこと以外の雑用に追われている先生たちのご苦労を思う。
だが、こんな話を聞くと、ちょっとぐらぐらしてしまう。さらに、念のために言えば、この二人の某さんが勤めるのは、それぞれ別の地方なのである。特定の地域に妙な「常識」が残っているらしいというわけではないのだ。
本当に大切なことには無策なのに、どうでもいいような細かいことにやたらと潔癖で、はみだす者を受け流す度量がない。嫌な時代だ。懐古趣味に陥りたくはないが、インターネットもブログも携帯電話もなくて不便だったけれど、昭和の社会はもっと大人で、大らかだった。だからこそ、せめて学校現場だけでも、妙な「常識」を温存しないで、「良識」が通じるところであってほしいと思う。将来教職に就く若者たちへ心構えとして、偉い方がお見えになったら、お履物は磨いておくものだぞなどと指導するのなんか真っ平である。
指導主事先生が機嫌よくお帰りになったのは、お履物が磨かれていたからではなかったと信じたい。
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