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2006年6月 1日 (木)

封印された音楽~信時潔をめぐって

現代芸術論第7回

ピアニスト・花岡千春さんの演奏による「木の葉集~信時潔ピアノ曲全集」(Bellwood Record)というCDが出て、信時潔の作品の多くを聴けるようになった。1928(昭和3)年に書かれたピアノのための組曲「野花と少女」は、作曲者曰く「愛好するシューマンのピアノ小曲にならって」書かれたという、3曲からなる小品連作。シューマンからの影響とともに、シューマンが聴いたであろうドイツ民謡からも、多くのインスピレーションを受けているように聴こえる。そして、ところどころには日本音階がこだまする。
15曲からなる組曲「木の葉集」は、さらにキャラクターの強い小品が並ぶ。ドイツ民謡調だったりロシアの田舎の踊りのイメージだったり。全15曲まとまって一つのことを訴えかけようするというよりは、1曲ごとの意匠を楽しんでもらいたいという趣旨であるように思える。

1936(昭和11)年の「沙羅」は、信時潔の代表作と言って差し支えない。簡素な造りで整えられた8曲の連作歌曲。実直なこの作曲家の性格を映してか、派手さはないが同時にあざとさなど微塵もない潔癖な作品だ。現在入手できるCDは、柳兼子83歳の歌唱によるもののみ。西洋音楽の発声で日本語を歌う技術において草分け的存在であるアルト歌手柳兼子の歌唱は、年齢によると思われる声の震えは多少あるものの、その表現力には目を瞠らされる。時に伝統的な日本音楽の歌唱のように聴こえたりするのは、彼女が小さい頃から長唄に親しんでいたことと無関係ではないだろう。

ここまで挙げたような作品は、これからも無条件で演奏されていくだろう。問題は、「海ゆかば」と「海道東征」である。

「海ゆかばのすべて」というCDがある(キングレコード)。さまざまな編成の「海ゆかば」が、録音の新旧や別の作曲家による異曲もとりまぜて25種類収録されている。中には、林光編曲による弦楽四重奏版(映画「東京100年」挿入曲)や、寺嶋陸也演奏によるグルリット作曲「『海ゆかば』変奏曲」抜粋のような珍品もあるが、やはり海軍軍楽隊の演奏によるものや、出陣学徒壮行会実況録音などは、この歌が背負った不幸な歴史を如実に語っている。私の母親は昭和4年生まれだが、「海ゆかば」は、事あるごとに聞かされたし歌わされたと言い、今でも詞章がスラスラと口をついて出る。この世代の人たちは皆そうなのだろう。戦後は、テレビのワンシーンでの効果音としてか、街宣車の大音響でしか聴くことはできない。いい曲なのに・・・と多くの人は言う。実際、曲の半ばで借用和音(ハ長調に対してイ短調からの)が大変効果的に使われ、曲を引き締めている。そして、歌詞を外して、例えば弦楽四重奏版などで聴くと、ほとんど賛美歌のようにも聴こえる。

おそらく日本で最初の交声曲(カンタータ)である「海道東征」1940(昭和15)も、皇紀2600年奉祝行事のために、戦争協力機関からの委嘱によって書かれたという出自を持つのでなかったら、封印される必要はなかっただろう。北原白秋による詞章は、目で読むとかなり晦渋に感じられるが、信時潔は随所に美しい旋律を付している。大らかで剛直、そしてここでもエキセントリックな夾雑物のまったくない潔癖さで、作品はすっくと立っている。この国の「天地創造」の物語を歌うカンタータは、元になった伝説とともに長く健康的に受け入れられて良いはずだった。

天平12年、建立された大仏を覆う金の発見に関わる大伴家持の言立てが、太平洋戦争兵士の殉死を美化する歌にすりかえられたことで、「海ゆかば」の生みの親・信時潔は国民的作曲家になったが、戦後は、葬り去るべきものとして「海道東征」とともに封印されてしまった。彼の保守的な作風が、戦後日本のモダニズムからは受け入れにくいものであったことも大きく関係しただろう。
だが、あらためて作品を聴いてみると、その精神は瀧廉太郎に象徴される唱歌、さらに遡って賛美歌や民謡にまで、まっすぐ繋がっていることがわかってくる。信時潔の音楽は、同じく賛美歌から出発した山田耕筰流の、マニエリスムとも言えそうなレトリックとは対極にあって、朴訥な農民のように邪気がなく率直である。「海ゆかば」や「海道東征」のメロディーやハーモニーからは、「会衆による祈りの歌」とでもいうような穏やかなこころが聴こえてくる。玉砕を強いるような暴虐な思想は、ここにはない。
音楽に染みついてしまった血を、きれいさっぱりと洗い落とすことができたら、どんなに良いだろう!

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コメント

海道東征、勿体ないですよねえ!すっごいいい曲なのにナァ。戦争をしらない世代だからそういえるのでしょうか。
柳兼子さんも良かった…。

kすけくん、こんばんは。海道東征は、家でひとりで聴いたのと、教室でみんなで聴いたのと印象が違って、自分でも少し驚きました。いい曲ですね。難しい詩ですが、とてもしなやかないい音楽だと思います。

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