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2007年3月15日 (木)

非国籍のパラダイム~安部幸明の交響的作品

安部幸明氏は、数年前まで演奏会場で何度かお見かけしたことがあるが、昨年暮れ、95歳で亡くなられた。

日本で最長老の作曲家として名の知られた方ではあったが、実際に作品に触れる機会はほとんどなかった。弦楽四重奏曲を15番まで書いておられるとのことだが、第何番だかがいい曲らしいよなどと誰かが言うのを聞いても、ショスタコーヴィッチ並みに録音でもされていればともかく、演奏される機会は少ないし出版もされていないのだから、その作品はほとんど伝説のように感じられた。

唯一の例外は「クラリネット五重奏曲」で、このブログの昨年6月8日の記事にも登場している。私はそこで、「率直でけれん味のない清潔な音楽」と書いた。

日本作曲家選輯と銘うったディスクを出し続けている naxos が、このたびの新盤に安部幸明氏の交響的作品を収めたのは、シリーズのここまでの流れから見ればとても自然なことだ。世界初録音の「交響曲第1番」(1957)、それに「アルトサキソフォーンとオーケストラのための嬉遊曲」(1951)、「シンフォニエッタ」(1964)の3曲が収録された。

「シンフォニエッタ」は日本フィルシリーズに応えて書かれたもの。これまた伝説になりかけている渡邉暁雄氏の仕事を顧みるためにも、この作品が録音されたのは歓迎すべきことだと思う。

いつもながら分厚いブックレットに、片山杜秀さんによる詳細きわまるライナーノートがついている。これがこのシリーズのもうひとつの「売り」だ。字が細かくて老眼の進んだ眼には少々きついが、他では資料が入手しにくいので、とてもありがたい。昨年亡くなった作曲家は、250年前に生まれた作曲家よりわからないことが多いのだ。

そしてその作品だが、何度聴いても不思議な印象が残る。いわゆる「保守的な」作風には違いないのだが、「シンフォニエッタ」の一部分で聴こえてくる擬「雅楽」調や擬「火の鳥」調などを除けば、これは一体いつの時代の、どこの国の作曲家が作った作品なのかわからなくなってくる。「嬉遊曲」は特にそうだ。

ここまでの naxos のシリーズで聴けるいくつかの作品、山田耕筰はもちろん、例えば橋本國彦でも大木正夫でも、「私は日本の作曲家である」という刻印がどこかに聴き取れる。シンフォニスト諸井三郎でさえ、そう感じる。だが、そういった刻印、聴く側から言うと邦人作品というアイデンティティを、安部作品から聴き取るのは難しいように思える。かといって、ドイツ風とかフランス風とかいった勉強の名残が響いているのでもない。無国籍というより非国籍的なのかも知れない。

一般論として、「保守的な作品である」という言われ方は、後世への影響が薄いということに繋がっている。斬新な作品ほど後進に大きな影響を与える、だから影響力の乏しい保守的な作品はその価値も軽い・・・と。

しかし、そういう一面だけでは、作品を本当に聴いたことにはならない。「保守的」であろうが「前衛的」であろうが、その作曲家が彼の音楽言語で、何をどのように語っているか、そしてそれが成功しているのかどうかを聴き取ろうとしない限り、作品に近づくことはできないだろう。そもそも、古いか新しいかではなく、使われている音楽言語が彼のものになり得ているかどうかがまず問題であるはずだ。

だが、安部幸明が作曲家として活躍した時代には、「現代音楽」の熱心な聴き手たちは、新しい音楽に対してそのようには考えなかった。「保守的」と見られた作曲家の作品は、敬してあるいは軽蔑して遠ざけられた。あえて近づこうとする人は、その作曲家と同じかそれ以上に頑迷固陋と見做された。だが、今では「現代音楽」という言葉さえ、もはやある種の時代的スタイルを示すに過ぎないものになっている。

安部幸明の音楽言語は、一見似たようなものがどこにでもありそうに見える。ところが、実はどこにもないものであるように思えてくる。だから、じわじわと面食らう。面食らいはするが、いずれも意欲作であり傾聴に値する音楽である。今聴いてみたら思いがけず新鮮だったというのではない。だが、今後古びることもないだろう。

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