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2007年10月

2007年10月27日 (土)

父のこと~こんにゃく問答

私が駆けつけてからの数日、父の容態は一進一退だった。厳しい状況を伝えられた翌日は妙に機嫌が良く、このまま快方に向かってくれないかと思っていると、その翌日にはまたひどく咳き込み、熱も下がらなかった。

父は、主治医の先生から話しかけられると医学者の口調になり、看護師さんからの呼びかけには、「はーーい」と、小学生の男の子のような返事をする。熱が少しおさまっている時には、自分から饒舌に話しかけてくる。しかし、私たち家族との会話では、大抵の場合主語がなく、内容はトリップしている。父との会話は、ほとんど「こんにゃく問答」になった。

父「慌ててねぇ。」

私「慌てて?」

父「雪の中を。」

私「そりゃ危ないねぇ。」

父「うん、うん。」

私「滑っちゃって危ないわ。」

父「うん、うん!」

父は、言おうとしていることが通じたと思うと、とても大きな声でうなずく。だが、私が答えている言葉は、あてずっぽうなのである。私も、次第にこのこんにゃく問答を楽しむようになっている。

父「急いでかきこんだんでしょう。」

私「そりゃいかんね。」

父「うん、うん。」

これらの言葉に前後はない。突然、こういうことだけを話し出すのだ。誰が何をかきこんだのか皆目わからない。

父「6月くらいまで、おじいさんがおらっせたけど」

私「おじいさん?どこのおじいさん?」

父「栃木県!」

私「栃木県?」

父「うん、栃木県!」

栃木県におじいさんの知り合いはいないはずなのだが・・・。

かと思うと、「アメリカ人は、栄養過多だなあ」と、えらくまともに直球を投げてくることもあれば、「もう少ししっかりしたものが出んと売れんなあ」と嘆いてみたり、「いかんなあ、こういう食べ方は。しっかり食べにゃ」と諭してみたりする。「なぁにやっとる。いい気なもんだ。ははは」などと笑う時は、かなりご機嫌なのだろう。

言葉がはっきりしないことも多い。

父「・・・・・・だ。」

私「え?」

父「・・・・・・・・・だ。」

私「そうか、大変だね。」

父「何がぁ?」

何がぁとか、いきなりマジに問い返さないでほしい。私はあてずっぽうを言ってるだけなのだから。

それにしても、この人は今、一体どんな夢を見て生きているのだろう。そして、なぜこんなに饒舌なのか。元気な時は、自らしゃしゃり出て座を仕切るというようなことは一切なく、みんなが話しているのを聞きながらにこにこしている、どちらかといえば口数は多くない人だったのに。

私自身は、ボケるのは嫌だ、ボケるくらいなら、さっさといなくなってしまった方がいい・・・と思っていた。だが、それは命の危機を間近にしたことのない無邪気な言い様だと思い知らされる。頭がはっきりしていて身体が辛そうなのと、多少ボケていても元気なのと比べたら、家族としては、少しくらいボケていてもいい、一日でも長く生きてほしいと切実に思うのだ。

2007年10月24日 (水)

父のこと~診断

朝、父は一人で病室にいた私に気づいた。

「来たんかね。」

「うん、どう?」

「あぁ…変わらんねぇ。」

この言い方は、ふだんの父と全く変わりなく、自分から私に気づいてくれたことが嬉しかった。

痰がからむのでしきりに咳をする。何回かに一度、まとまった出てきた痰を拭きとってやらなければならない。だが、胸のあたりにつっかえたまま、なかなか思ったようには出てこないので、苦しそうである。

「どう?出る?口の中に溜まってる?」

「いや。」

「焦って咳こむとくたびれちゃうから…。」

「あぁ。」

しばらくして、父が言う。

「にょうをね。」

「ん?」

「にょうをね、だす。」

「尿?導尿してあるよ。」

「尿…出たいのに…。」

「あぁ、尿を出したいのに出ないみたいな感じ?」

「うんうん。」

苦しみながら吐いた痰について、「今のは右側(の肺)から出た」「肺炎の時の痰みたいだな」などと、「診察」している。眠ってばかりいるが、主治医の先生から状態を話しかけられると、○○という薬打ってもらったから、もうちょっとこうなるはずだがなぁ…と、うわ言のように言う。

父は医者だった。今入院しているのも、若い頃から定年まで、勤務医として勤め上げた公立病院だ。リタイアしてから、もうずいぶんになるが、まだこの病院には、父に世話になったと言ってくださるお医者さんや看護師さんがいらして、「先生、お加減どうですか」などと話しかけてもらっている。

しばらくして、父は言った。

「…に送るようなことはないかね。」

「え?」

「せんもん」

「専門?」

「専門に送るようなことはないかね」

「うん…。」

「熱のある人もおらんかね」

「うん…。」

私は「うん」と答えているが、あてずっぽうなのだ。父が、何について話そうとしているのか、わからなかった。

「それは…じゃないの」

「え?」

「それはいいじゃないの」

どうやら、この、かつての名古屋T病院産婦人科部長は、夢の中で勤務中らしいのだ。患者さんたちの様子を婦長さんに訊いている会話と思えば、説明がつきそうな気がする。

この日、主治医のI先生が、病歴と現状を、私一人に丁寧に説明してくださった。「私も先生にお世話になりました」とおっしゃるI先生は、最後に、「こうなると・・・厳しいです。2~3日目あたりで新しい局面を迎えるかも知れません。」と、絞り出すように言われた。

厳しいことを言われるのも覚悟していたつもりだったが、足が震えた。

2007年10月23日 (火)

父のこと~呼び出し

10月23日(火)、授業を終えて研究室に戻ってくると、携帯に何件もの着信記録。嫌な感じがして、すぐに連絡を取る。

父は、6月頃から体調が良くなかったようだが、暑かった夏が過ぎても回復せず、10月4日から念のためにということで入院していた。ところが、嘔吐したものが肺に入ったことが原因で誤嚥性肺炎を起こし、厳しい状態だという。

事態の急変に、とまどった。電話の先で、母は来なくてもいいと言うが、話の内容とはまったくかみあっていない。しばらくして、母から再び着信。「やっぱり来てもらおうかなぁ」と、母としては異例の言い方が、事態の重さを伝えた。

身内が緊急事態にある中、平常心で授業をするのは難しい。次は少人数の授業だったことを幸いに、学生くんたちには申し訳なかったが、課題を出すだけで打ち切らせてもらう。
仙台を18時26分に発ち、名古屋に着いたのは22時前だった。病院へ直行する。

父は、眠っていた。その身体は、老いて一回り小さくなり、点滴のチューブや酸素吸入などで機械に繋がれた様子は哀れに思わずにはいられない。頭の中を冷たい風が吹き過ぎるような気分だった。

2007年10月22日 (月)

合唱劇「銀河鉄道の夜」

10月20日、合唱団「じゃがいも」による合唱劇「銀河鉄道の夜」の山形での初演、無事終了しました。ご来場の皆さま、応援してくださった皆さま、そして団員の皆さん、どうもありがとうございました。

Photo上演時間は、前半が約60分、後半約50分。じゃがいもとしては初の「一晩もの」の合唱劇です。賢治を原作とする合唱劇を過去に13作も発表してきた経験があるとはいえ、さすがに今回は、キャストの皆さんも苦労されたと思います。

「銀河鉄道の夜」、やはりこれは特別な作品です。うぬぼれていると思われると困るのですが、昼の部も夜の部も、客席はしーんと静まり返っていて、舞台に向かうベクトルが集中しているようでした。それも、最初から最後まで。こういう客席の静けさは、あまり経験がありません。舞台も客席も、みな夢の中にいるような不思議な感じでした。

メンバーは、演奏会前の週など、連日練習でかなり疲れているはずなのだけれど、みんな全然疲れた顔をしていませんでしたし、疲れた声にもなっていませんでした。

これらのことは、やはり原作の力だと思います。読むだけではわかりにくくても、演じてみてわかることがいろいろあったし、何よりも、この原作のためならば・・・という心意気がひとりひとりにこもっていたのではないでしょうか。

そして、どうしてこんなに涙腺を刺激するのか。これも演じてみてはじめて読み取ることのできた原作の抒情なのだろうと思います。

友人のmasaさんが前の記事につけてくださったコメントの一部を、勝手に引用します。masaさん、ごめん!

初演の成功おめでとうございます!
この日は土曜なのに仕事があって、職場から東部~南部~東北道~山形道と4つの有料道路をまたいで開演5分前に会場に滑り込んだので、ご挨拶も出来ず失礼いたしました。
作品が作品だけに「よかったです」「素晴らしい出来でした」的な感想とは次元の違うところでお話しないとだめですね。賢治のファンや研究者って世界中にいると思うのですが、そういう人たちがこの作品を知ったらすごいことになると思います。
そういう意味でもチラシを見て関心を持って来てくれるお客さんがもっといてもよかったと思いました(ちなみにこの日はY大学音楽科の定期演奏会とブッキングしていたようで・・・、我が後輩たちにも聴かせたかったなあ・・・〉。

「すごいことになる」かどうかはわかりませんが、すごいことをしちゃったかも知れないなぁ・・・という感じはあります。「銀河鉄道」の合唱劇化を打診された作曲家のひとりが、無理だよと言って断ったそうですが、「無理だ」と思う方が正常な思考だと思います。それなのに、とうとうやってしまいました。賢治の世界に迫れたとは思いません。でも、とにかく真正面から取り組んで、精一杯やったことだけは確かです。

3 打ち上げで見せた、大人も子どももこの笑顔!あの原作でなければ、これほどにはならなかったのではないかなと思うのですが、どうでしょうか。みんな、ただ楽しかったというだけではない、何か豊かなものにつつまれているようでした。

仙台公演が1月にあります。ぜひたくさんの方に観ていただきたいと思っています。それに向けて、少しだけ手を入れて、よりパワーアップさせるつもりです。

2007年10月19日 (金)

お手軽東北の味

大学の生協食堂では、時々ご当地フェアのような企画があります。

いま、「八戸せんべい汁」というものを食べてきました。八戸の方には申し訳ないですが、初体験でした。しょうゆ味の汁に、鶏肉やニンジン、大根などの野菜とともに、南部せんべいを割ったものが入っているのです。そう、けんちん汁に、ちょっと妙なものが入っていると思えばいいですね。

汁にせんべいを入れるだって!?・・・と、今まではちょっと引いていました。まぁ、食べる機会もなかったし。

もちろん、せんべいはふやけます。どうなるかというと、手ごわい麩というか軟弱なほうとうというか、そういうものになります。八戸の方には申し訳ないですが、思いのほか美味しかったです。

そういえば数日前には、ふかひれスープがメニューにあがっていました。なぜそんなものが・・・というと、宮城県気仙沼はふかひれで有名なのです。

ふかひれ・・・。えっと、シイタケがたくさん入っていました。

あ・・・うん、ふかひれも入っていましたよ、確かに。

これも普通に美味しかったです。だって、シイタケのだしがきいているもの。

2007年10月18日 (木)

Milkyway Train 出発二日前

昨日、今日と、仙台から山形へ往復して練習に立ち会いました。

とても面白くなっているのだけれど、昨日も今日も通せませんでした。作品が長すぎて。だって、2時間以上かかる作品の練習枠が、2時間半っていうのは、どう考えても無理だよね。

普通だったら、ピリピリしちゃって、雰囲気悪くなるところですが、不安いっぱいが顔に出てるのはスタッフだけで、団員のみんなはニコニコしてるんですよね。すごいなぁ、根性座ってるよなぁ・・・。

しかも、毎日台詞の長さが変わったりしているのに、義務づけてはいないのにみんな楽譜はずそうとしてるし。

この合唱団は、もちろんアマチュアの団体ですが、表現者としてはほとんどプロです。もしかしたら、賢治が農民芸術論で求めたのは、こういう人たちに近いのかも知れません。

それにしても、夜の山形道はスリリングです。昨日と今日、車で往復したけれど、昨日の夜などは、山形蔵王インターから村田ジャンクションで東北道に合流するまでの30分近く(?)、前後に5台くらいしか他の車と出会わなかった。大半の時間、「ひとり旅」です。しかも、照明はほとんどなく、周りは山。つまり前も後ろも左も右もずっと真っ暗!それに、県境の峠越えをするので、カーブや坂道も多く、真っ暗な正面に星ばかりが見える・・・という、銀河鉄道の運転手か、私は!

星に見とれていると、そのまま天上に行ってしまいそうなので、しっかり見ることができなくて残念でした。こういうドライブの音楽は、クラシックはダメです。特に夜は、テンション高いのでないと。マイルス・ディヴィスをがんがんかけながら約1時間走りました。

2007年10月13日 (土)

Milkyway Train 出発に向けて

夕べ遅くに、最後のオーケスレーション譜と追加の短いBGM(14小節)を、そして先ほどプログラム原稿を送って、すべての作業が終了しました。

気がついてみると、最初の公演まであと1週間!いやぁ・・・しかし、今回ばかりは終わらないかと思った。いつもそう思うのだけれど、今回は特に。ヴォーカル・スコアは170ページくらいあります。

私の作業は手こずりましたが、練習は順調にいっているようです。先週の日曜日、練習を聴きに行ってきました。久しぶりに元気な歌声を聴いて、疲れがだいぶ飛び去りました。

Photo いつもギリギリまで作業をしているので、何度も練習に立ち会うことができません。練習に行く時間があったら書かなければならないからです。出来上がった時にはすでに本番が近づいていて、行ける練習日が限られてしまいます。ちょっとつまらない。

でも、曲は私がいなくても育てられていきます。これから1週間で、完全に「じゃがいも」の物になるでしょう。

2007年10月 4日 (木)

Milkyway Train 運行記録の続きとご案内

つい先ほど、短いBGMを2曲送り出しました。ようやく作曲は終了です。

・10月4日 急降下[24]、川を見つめる人々[15]

楽器パートの整備がありますから、まだ作業は続きますが、とりあえず間に合って良かった・・・。・・・というわけで、ようやくここにもご案内を書けるようになりました。

合唱団「じゃがいも」第34回定期演奏会(宮澤賢治音楽劇場 その13)

合唱劇「銀河鉄道の夜」

宮澤賢治・作、山元清多・演出、吉川和夫・作曲、指揮・鈴木義孝

10月20日(土)15:00、18:45開演 山形市中央公民館ホール(as)

2008年1月27日(日)15:00開演 仙台市青年文化センター シアターホール

詳細は、合唱団「じゃがいも」のホームページ→http://homepage2.nifty.com/jagaimo/

ぜひ秋の山形、あるいは冬の仙台へ、いらしてください!

2007年10月 3日 (水)

その後のMilkyway Train 運行記録

前の記事、9月25日以降の「運行」記録です。

・9月28日 エピローグ「あまの川」[28]

・10月1日 石炭袋[245]、河原を走るジョバンニ[37]、南十字[43]

・10月2日 プロローグ「あまの川」[32]

「石炭袋」というのは変なタイトル(仮題)ですが、クライマックスに至る部分をひと繋がりにしたので、小節数も突出して多くなりました。

これで一応、歌の入る曲は完了です。あと数曲、BGMと、今までに渡した曲の器楽パートを書きます。まだまだ作業は続きます。

現場では、上演時間が2時間を超えそうなのをどうしたらいいか、悩んでいるらしい。

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