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2008年9月 7日 (日)

思う会

1081080_imgもはや伝説の人となってしまったが、原田力男というピアノ調律師がいた。

・・・などと書き始めると、この記事は長大なものになってしまう。

音楽や文筆、演劇関係者、学者などたくさんの著名人を顧客に持ち、コンサートを制作し、自身の意見を吐露する場として、ガリ版を切って印刷し、友人知人に配って歩いた。

ある日突然ポストに投げ込まれるガリ版通信は、多くの人を面白がらせたり、考えさせたり、怒らせたりした。この点で彼は、言ってみればブロガーのハシリだが、今だったらブログという便利な手段を使ったかどうかはわからない。

若い音楽家、学問者を応援したが、青年たちの内に、軽薄な物言いや、テングになっているような行動を嗅ぎつけたりしたら、容赦なく叱咤した。「権威」におさまってふんぞり返るような輩が大嫌いだったのだ。

私は大学受験浪人が終わる頃、この人とひょんなことから知り合いになり、その後、彼がコンサート制作にムキになっていくきっかけを作ることになってしまう。

私の東京でのデビューも、彼の制作したコンサートだった。その同じコンサートで、私と同じ大学に属していた「先輩」もデビューする。父が著名な編集者だというその青年の名前は坂本龍一だ。

原田さんは、大学生の私を引き回して大人の世界に、つまり大人たちの集まるバーなどによく連れて行ってくれた。武満徹さんや松村禎三さんと一緒になったのもバーの止まり木だったし、作家の中井英夫さんにもよくお会いした。中井さんは、「虚無への供物」という長編でよく知られた作家である。私は、何という生意気で贅沢な大学生活を過ごしていたのだろう!

その中井さんに「夜翔ぶ女」という短編がある。主人公の名前が「吉田和夫」というのだが、これはもしかして私の名前から取りましたかと尋ねてみたかった。しかし、その時を得られぬまま、機会は永久に失われた。

・・・そんなことを書き続けていたら、きりがない。

病魔に蝕まれてからは、体力が必要なコンサート制作は止め、若い学問者の研究発表を聴く小さな勉強会を主宰した。音楽学、美術学、宗教学など、ジャンルを問わなかった。医学や哲学を学ぶ青年もいた。当時の若き学徒たちは、現在ではベテランと呼ばれる位置にいる。

コンサートも含めて、これらの活動はすべて彼の手弁当で行なわれ、入場料などを取ることは一切なかった。この活動は自分の「余技」なのだから、誰からも金銭的援助は受け取らないのだと開き直っていたが、金銭を受けることで性根が浅ましくなることを警戒していたのだろう。同時に、「余技」の持つ大きな力を信じていた。

しかし、「ぼくらの創作活動は、余技ではないのに・・・」と、若かった私は考え、彼のそんな姿勢に巻き込まれることに、反発を感じたこともある。

亡くなってから、はや干支を一回り過ぎた。数奇な人生、生涯独身だったから、友人たちが終末の面倒を見てきたが、このたびは、その友人たちの発起によって、「原田さんを思う会」が催された。

皆で昔話をしても原田さんは喜ばない、と考えたのだろう、勉強会のメンバーでもあった高久暁さんが、「中国のピアノ教育に接して」というタイトルで発表を行なった。かつての勉強会の一日限りの再現である。かつて顧問のような存在だった戸口幸策先生もお見えになった。

1081086_img 高久さんは、ギリシャの作曲家スカルコッタスや、ロシアの作曲家メトネルなどを研究している音楽学者だが、近年は、Chinese Pianism ということにも興味を持っているそうだ。話は、狭義の「ピアノ教育」に留まらず、中国のピアノ音楽事情全般をめぐって約3時間。ウィーン楽友協会で毎年催されているというチャイニーズ・ニューイヤー・コンサートの話などにも及んで、とても面白かった。

1081084_img 会場の「こどもの城」研修室から外を見ると、別棟の屋上で子どもたちが遊んでいるのが見える。不思議な景色。その下は青山通り。

この後、凄まじい雷と豪雨になって帰るに帰れず、レストランで高久さんらと話す。この場に原田さんがいないのが物足りないけれど、同時に、彼がいた時代が遠い遠い昔のことのようにも思える。

彼が今もし元気でいたら、この平成という時代の浮薄な文化状況を、すっかり軽蔑しただろう。しかし、それでも彼はあの頃のように、今の若い音楽家や学徒たちのうちに、志と希望を見出そうとしただろうか。

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